「人間は線を引く くちなし#1」”People Draw a Line gardenia#1″
606×727 mm, oil on canvas, 2022.
何年か前に見たドキュメンタリー「マルメロの陽光」の中で、アントニオ・ロペスが庭のマルメロの木を描く際に、直接マルメロに絵の具でアタリを取っていたシーンがショックで、それからずっと意識に残っていた。
果実に印を書くことは人間が自然に対して支配的な力を振るうことの象徴でもあり、文明というパワーを得た人間が、抵抗する力を持たない「自然」を支配し、利用してきた歴史の凝縮でもある。
おかげで人間は繁栄してきたものの、それと同時に強者が弱者を支配するという構造はあちこちに見られる。西洋文明による非西洋文明への侵略や、帝国による植民地化が行われ、差別を生み出す原因にもなった。線を引くということは、こちら側と向こう側を区別する。
ロペスの例のシーンに、こういったことが象徴されていたのだなと気付いたのは、最近のことだ。
例えば、人間関係で「一線を引く」という言葉にも、こちらと向こうを切り分ける意味がある。だが絵を描くという行為も、始まりは線を引くことである。線が特定の形をとったら文字になる。これを読んでいる人も、線が生み出したものを、他にもいくらでも思いつくと思う。
線を引くことには、必ず何らかの力を伴う。
「人間は線を引く」に正解の見方は無い。
ただ、線を引くのは人間であり、その力の甘美さにみいられてはいまいか、自らに問うことを忘れてはならないのである。